第31章 I am nothing
ーーーヒュッ
息を呑む音が、爆豪の喉元で静かに響いた…
今、爆豪の胸を食い荒らしている罪悪感を、くるみは楽しそうに手に取って目の前に突きつける。
少しでも動けば落ちてしまいそうだと、背後で口を開ける谷底を想像して足が竦んだ
くるみの両腕は、爆豪を包み
甘い、楽な方へと誘う…。
『ね…もう、爆豪くんはヴィランなんだよ?
望もうと、
望むまいと……
しかも超極悪のヴィラン。
あのオールマイトを破滅に追いやった、手助けをしたんだから』
(手助け……? 俺が?)
耳たぶに触れる距離感で囁かれるの言葉は、爆豪の心を蝕み、吐き捨てていく…。
「違う……俺は……」
大声で反論したいのに、喘ぐような言葉しか出なかった。
『知ってる?
爆豪くんの、だーいすきなオールマイトと、大嫌いなデクくんの関係……』
蜜だと思っていたのは、毒薬で、どろり…耳穴から垂らされた毒に体が硬直して動かない。
膝に触れるコンクリートが、冷たく
体の体温を奪って行く……
『オールマイトはね、デクくんを自分の後継者に選んだんだよ……?
無個性のデクくんに、与えられたのはオールマイトの個性……「ワンフォーオール」
悲しいねえ、爆豪くん。デクくんより強いのに、オールマイトに選ばれなかったんだ?』
『同じ憧れたのに、オールマイトは、デクくんを選んだ
強個性で、一番の爆豪くんじゃない
オメガで、無個性で、あんなに弱そうなデクくんを……
オールマイトの力を持ってるんだもん…。
爆豪くん。あの“ナードくん”に、負けちゃうんじゃないかな?』
言葉を返す気力も取り上げられてしまった。
『ねっ』
くるみはぴょこんと飛び跳ねて爆豪の前に立つ。
その笑顔はよく知ったもので、
何度もときめいたもので、
出会ったばかりのくるみが、そこに居た気がした。
『ヴィランになろうよ、爆豪くん』