第31章 I am nothing
「そういえば、昨日…あのあとどうなったんでしょうかね」
「そこのテレビはつかねぇのか?」
荼毘が顎をしゃくって部屋の隅を示した。
簡素な部屋
日の光に閉ざされた密室で指し示されたのは
分厚いホコリを被ったブラウン管だった。
見ただけで噎せそうなほど頭からホコリを被っていて、年季が入っている。
電源ボタンを押すと、ピーンと張り詰めたような独特な音と共に画面がざわつく。
「オイ、リモコンどこだよ。/一生要らねぇよそんなもん」
トゥワイスが周囲を見回していると、チャンネルを回す必要もなく求めた映像が映し出され、全員が口を閉じた。
電波が不安定なのだろうか。
ビリビリのノイズが混じる
歪な線がよぎるテレビ画面……
そんな不鮮明な映像でも、小さな画面でもハッキリと伝わった。
ニュースが伝えているのは、昨日のオールフォーワンとオールマイトの一戦だ。
激しい戦闘によって辺り一帯の建物すべては吹き飛ばされ、瓦礫だらけの平野となった神野区。
その上空を旋回するヘリコプターから、カメラは瓦礫に立つ男をズームしていく。
「……!!」
爆豪は目を見開いて、その画面を凝視した。
最後の力を振り絞って拳を突き上げるオールマイトの後ろ姿…。
空っぽだったはずの胸の中に、再び感情が複雑に渦を巻き始める。
憧れのオールマイトが…
自分が囚われていなければ、避けられたかもしれない戦闘
絶望
後悔
罪悪感……
目を逸らしそうになったが、ふわりと感じる温もりが、それを阻止した。
顎に触れるのはくるみの細い指先。
くるみは爆豪の顎を掴み、上を向かせる。
自分の意に背いて向けられたのは
目の寄らしようもない現実
声が耳元で甘く囁いた
『ねぇ、爆豪くん…』
何も変わらない
今までどおり
優しい
愛しい
甘い甘い誘惑
蠱惑に溶かされた甘い蜜
『これでもまだ、ヒーローになるの?
ヒーローとしてのオールマイトを殺したくせに…』