第29章 I am talking about our past
『お父さんは『普通』が何よりも好きなの
常に『普通』を押し付けてくる…
私は…全然『普通』なんかじゃ無いのに…!』
彼女の手のひらが震え、部屋の奥でカタカタと何かが音を立て始めた
『『普通』って、結局『理想』なの…
『普通』にいい中学に入って、エスカレーターで高校に行って、『普通』にいい大学に入って、『普通』に就職して結婚…
超人社会になって、この世界に『普通』なんてありえないのに…』
彼女の目の色が黄金に輝いて
キャラメル色の髪がふわふわと風に浮かんだ。
風なんて、どこからも感じないのに……
『私…『普通』なんて……
『普通』なんて……大っ嫌い!!!』
くるみが叫ぶと、部屋の端に飾られていた間接照明のランプが音を立てて、
もう一方の壁にぶち当たって割れた
「っ!?」
大きめの破片が、ベッドに飛び散り
死柄木はくるみの頭を抱えて、その体を守る
「この…個性……」
ベッドの上の破片を見れば、猫の顔のパーツなようで、
飛び散った残骸から、間接照明は猫の座り姿のランプスタンドだったとわかった
驚く死柄木をおずおずと見上げるくるみの瞳の色は、また色を戻している
『もう『普通』の『いい子』で居るのは疲れたの……』
「くるみ……」
『ねぇ……こんな退屈な『私』を壊して…』
くるみの頬に涙が溢れた。
死柄木は実の親の愛情を受けてこなかった…
だからか、町を歩いている『普通』の人達は、皆、親から愛され『普通』に育っているのだと思ってみていた。
ーーーが、どうやらソレも違ったらしい。
親からの愛情というのは、エゴにもなり得るのだろう。
彼女の父は、彼女を思って『普通』を押し付けているのだろうか。
それとも娘を『普通』によく出来た自分の作品だとでも思いたいのだろうか。
どちらにせよ、自分の腕の中で喘ぐ、まだ14の娘は、ヴィランになる事を切に願っているように見えた……
彼女は『普通』に絶望している。
瞳の色を見ればわかる
くるみの願いは切実だ。