第26章 I am a ○○
交戦は突然に仕掛けられた
男が微かに上向いた時、その“歯”が伸びたように見えた直後
爆豪と轟めがけて向かって迫ってきた。
一直線に伸びたソレ(歯)は爆豪の頬をかすめて、木を貫く
「──!?」
だがそれで終わりではない
硬いと思っていた鋭利な歯が一度ゴムのようにしなり、途中から“分かれた”のだ。
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ヴィラン名、ムーンフィッシュ
凶悪な死刑囚(脱獄中)
その奇妙な個性は【歯刃】
自身の歯を伸縮・分岐させる事ができるというもので、刃物のように鋭い歯は相手を容易に斬り裂いてしまう。
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爆豪と轟は咄嗟に飛び退いた。歯刃が二人が立っていた地面に突き立てられる。
まるで大地を這う根のように、トナカイの角のように次々と分岐を繰り返し、二人を追い回し始めた。
「──っ氷で防げ!」
「分かってる!」
途端に戦場と化した密林
怒鳴る爆豪に、轟も自然と声が大きくなる。
分厚い急ごしらえの氷塀が、いとも簡単に打ち破られ続ける
それほどの強度、斬れ味…
肉に触れてしまえば一溜りもない…
さっき足元に転がっていた【手首】を思い出して戦慄した
「こんなん、あのヒョロガリ本体を叩きゃァ──」
迫る歯刃を躱して一気に突っ込んだ爆豪だったが、その手のひらが男を捉える事は無かった。
痩せ型の体がなにかに釣り上げられたかのようにふわりと浮き上がるーーー
が、逆で
釣り上げられたのではなく、下から細く伸びた歯のみで支え押し上げているようだ…
蔦のように絡み合いながら、主の身体を持ち上げ、樹海よりも高い場所へと…
伸びていく
運んでいく
突然の事に2人が硬直している間も、
歯刃の猛攻は止まることをしない
巧みに空中移動を繰り返すヴィランに、全く攻撃が届かず、
踏み込まれて防御に徹するだけで必死だ