第26章 I am a ○○
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
切り立った崖の上に佇む影。
ある者は夜風にジャケットの裾を揺らし、ガスマスクに隠した口に笑みを浮かべ、ガスに包まれていく崖下の森を見下ろしている。
「思い知らせろ…てめぇらの平穏は俺たちの掌の上だということを…
そして、地に堕とせ
ヴィラン連合開闢行動隊……」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「くっそ……!」
「オイ、お前が狙われてんだから、あんま前に出んな」
辺り一体に充満するガスの臭いに警戒しながら前に進んでいく爆豪を、轟が諌める。
「知るかンなこと、指図してんじゃね…
……!?」
目の前に現れた異物に、爆豪が立ち止まった。
数メートル離れた道の先、もぞもぞと黒い何かが動いている。
「肉…きれいだ…肉面…ン…」
ブツブツと辛うじて聞き取れる声量で呟いている。
爆豪と轟はその足元に転がっているものに気がついて目を疑う。
【手】だった。
手首から上、手のひらと五本の指が見える。
ゆらりと振り向いた男の風貌は奇怪だった。
「仕事しなきゃ…ア…」
黒いサナギの様な目まで覆われた全身を包む拘束具、
口だけ露出した顔面、唇はフックで捲りあげられて歯茎が剥き出しになっている…
「気持ちわりぃ…」
轟の口から漏れた正直な感想に、声には出さずとも、同意する爆豪…
黒い巨悪なヒルのような形状に、寒気が走る…
(アレで、人間なのかよ…!)
時折呟かれる人語が、それを証明していた