第24章 I am dating with you
爆豪は頭を抱えるくるみを、横抱きにしてモールのそばに停まっているタクシーに乗り込んだ。
「折寺まで、急いでくれ」
「すみませんねぇ
今、そこのモールにヴィランが出たらしくて…
警察車両のせいで、ここ抜けるのが少し時間がかかりそうなんですよ…」
『痛い…痛いよぉ…』
くるみは爆豪の膝に頭を埋めて、うわ言のように嘆いた。
タクシーの運転手は、バックミラー越しにチラリとくるみを見ると、ハンドルを握りなおす。
「あぁ…ヒートかな?
大丈夫。僕もオメガだから、当てられて襲ったりはしないですよ」
「……そうじゃなくても、もう反応しねぇだろ…」
「ハハッ、こりゃ厳しい!」
運転手はは70は超えていそうな外見だった。
フェロモンを流すのも、感じるのもだいたい60-65歳までだと言われている。
「まぁ、お兄さんの言う通り、もうヒートもないよ。
あの頃は辛かった…。
毎月一週間休まないといけないから、定職にもつけなくてね」
ゆっくりと進んでいく車内の中で、男は自分の半世紀を話し始める。
「でも、その子にはお兄さんがいるんだから、幸せだよ」
「………どうだろうな」
弱気な発言をしてしまったのは、相手が行きずりの男だからかもしれない。
爆豪は、痛みのあまり気絶してしまったくるみの頭を撫でながら、そっと息を吐いた。
「俺じゃコイツを救えねぇ……
救えねぇくせに、コイツを手放してもやらねぇ…
こいつは幸せなんかじゃねぇ
俺らは、愛し合った時点で間違いだったんだ」
「そうですかねぇ…
でも、そのお嬢さんの寝顔を見てたら、僕はそうは思いませんけどね」
運転手が言う通り、たしかにくるみの表情は気絶している今は穏やかで、どこか安心しきっているようにも見えた。