第3章 I am general course
通学路の途中で、ふわふわと揺れる茶毛の細身の女を見つけて声をかけた。
「くるみ」
名前を呼ぶと、ふわりと振り返って驚いた顔を緩ませる。
『おはよう、轟くん』
また少し、心臓がきゅっとした。
思えば、朝の通学中に会うのは初めてで、
「歩きなんだな、電車通学なのか?」と聞くと『うん』と首を縦に振る。
『電車で三駅くらいのとこ、一人暮らしなんだけどね』
「実家この辺じゃねぇのか?」
『うん、実家は横浜だよ』
遠いな、と言うと、遠いねーと相槌を打つくるみ。
くるみと話していると、このノホホンとした空気感に呑まれてしまい、いつもの毛羽立った気持が何処かへと沈んでいきそうになる。
「でも、独り暮らしって大変そうだな」
『そうなの…
あ、でも家事は一応一通りできるんだ。
料理も洗濯もお父さんの方が上手だけどね』
「そう…なのか」
けれど、父親の話題になると途端にいつもの感情が湧きだってくる…
今くらいは、忘れたいのに……復讐に呑まれる気持ちも、誰かを憎む気持ちも…。
くるみのそばにいる時だけでいいから、忘れたい…忘れさせてほしい。
そんなことを思うようになったのは、いつからだろう。