第3章 I am general course
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轟焦凍は最近やけに胸に痛みを感じるなと思うようになっていた。
喉の焼けるような怒りには、もうとっくに慣れたはずだし
左目の疼く悲しみにも、もっと昔に慣れているはずだった
それでも時々感じる、胸を締め付けるような思いの原因が何なのかわからないまま
今日も朝を迎えた。
襖を透かす朝日と共に思い出したのは、一人の女。
そういえば、今日も放課後に約束したのだと思いながら枕の隣にあるスマートフォンに手を伸ばす。
昨夜返したはずのLINEにはまだ返事はなくて、まだ寝ているのだろうかと考えた。
ただでさえ人形のような外見だ。
目を瞑って動かなければ、さらに作り物かと見間違えてしまうだろう。
見たこともなければ、きっと見ることもない彼女の寝顔を思い浮かべる午前6時。
早朝のランニングに向かうためにランニングシューズに足を通す。
四月中頃の気温はそこそこ暖かく、そこそこ涼しく、走りやすい。
玄関を出ようとしたところで「焦凍」と呼ばれて
その声に、さっきまで割と軽かった気持ちが一気に重さを増した。
轟は死んだ獣のような視線を声の主に向ける。
「来月の体育祭の準備は出来ているのか、みっともない結果になったらどうなるか分かっているな」
「…うるせぇ」
轟は父親の言葉など何も耳に入れたくないと、イヤフォンをポケットから取り出して突っ込む。
適当にかけた曲は、姉さんにパソコンを貸した時に入った曲で、片想いの女の気持ちを歌った曲だった。
そんなもの、聞きたくも知りたくもないはずなのに…
何故か消すことも変えることもなく。最後まで聞いて。
次の曲で、自分のプレイリストに移った。