第19章 I am a boy
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「くるみに謝った…」
食堂で轟くんが言った言葉に、箸を落としてしまった僕は、
慌てて床から箸を拾い上げる。
「そ、それで…」
「いや、違げぇな…
くるみに謝られた…」
「あぁ…」
僕は妙に納得して、カツ丼を口に運ぶ。
「落ち度があった自分のせいだって…忘れよう…あれは事故だ…
そう言われた」
「うわぁ…それは…」
縫井さんからしてみれば、轟くんを思いやっての言葉なんだろうけれど、轟くんからしてみればどうなんだろう…。
「それって、轟くんが縫井さんを好きだってことには気づいてない感じ…?」
恐る恐る聞くと、轟くんは、箸を下ろす。
さっきから全く減らない蕎麦。
そう言えばこの何日か、毎日残しているけれど、大丈夫なのだらうか?
「気づいてねぇ
どころか、友達でいて欲しいって言われた」
「うわぁ…」
縫井さんの優しさが、どんどん轟くんの心のパロメーターを削っていて、もう、「うわぁ」しか言葉が出てこない。
その時、轟くんのかなり後ろの方で、かっちゃんが見えた。
その後ろを追いかける縫井さんの姿も…
その首に、未だ変わらず巻きついている革首輪に、僕の胸は苛立ちはじめる。
あの首輪は、番の居ない証みたいなものだ。
アレから一週間、二人の様子からして関係はもう「そういう仲」なのだろうけれど、それでも番になってないとなれば
嫌でもかっちゃんを軽蔑してしまう。
(正直…かっちゃんがあんな奴だとは思わなかった…)
確かに嫌な性格だと思う。
いい人だとは思っていない。
冗談だったとしても僕に自殺教唆してきたくらいだ…
けれど、根にはヒーローを目指す正義感がある…そう思っていたのに
(自分に好意を寄せてるのをいいことに、無責任に体を重ねつづけるなんて…
そもそも、縫井さんはそれで良いのかな…)