第17章 I am not your destiny
次の日、かっちゃんはいつもと何も変わらない様子で席に座っていた。
ただ、周りだけが少しソワソワしている。そんな状況だ。
かっちゃんは僕の方を向くと、備え付けの時計をちらりと見上げる。
ホームルームまで10分。
「顔かせ」
小さい声でそう言われて、立ち上がる。
轟くんは、まだ来ていなかった。
朝の廊下はまだ涼しく、影の指す階段付近は特に肌寒いほどだった。
「……」
顔を貸せと言ってきたのはかっちゃんなのに、一向に口を開こうとしない。
「あ…あの…」
そう僕がつぶやくと、かっちゃんは渋々口を開いた。
「…今日からはヒートん時おれがアイツの面倒見る。
お前はいい」
その言葉に僕は、少し頬が緩むのがわかった。
「そ、そっか!
おめでとう、かっちゃん!
縫井さんと番になっ…」
「なってねぇ…」
「…え?」
僕の脳は突然鈍く動いた。
番にはなってない、けど、面倒は見る。
それって、それって………
「かっちゃん…まさか、君は……いたずらに縫井さんを抱いてるだけなの…?」
そう問いかける
緑谷は、爆豪がアルファではなく、ベータだった事実を知らない。
だから、首を噛まず、ただ無責任にくるみを犯しているのだと勘違いして、打ち震える。
信じたくなくて。
そんなこと、信じたくなくて。
「そんなの、あんまりじゃないか!
くるみさんはかっちゃんのことが好きなんだ…
好きだから、そりゃ抱かれたら嬉しくもなるよ!
でも、そんなのじゃヒートは一時的にしか和らがない!
番になる他、オメガを救う方法はないんだ!
そんなの君だってわかってるだろ?!
番になるつもりもないのに、そんなことするなんて…
ヒーローを目指す立場の人のしていいことじゃないよ!
ねぇ!かっちゃん…」
途端、緑谷は肩を掴まれ壁に押し込まれた。
背中に当たるコンクリート壁がジンジン痛くて…思わず顔をしかめる。
「煩ぇ…それ以上言うと殺す」
「…番になるつもりがないなら、身を引きなよ。
他のアルファと番になる方が、縫井さんも幸せだ…」
「知った口きいてんじゃねぇ…」
爆豪は、そう言い残して教室へと戻って行った。
緑谷は、その場から動けなくて、そのままそこでチャイムを聞いていた。