第14章 I am lonely
縫井さんが起きるまで待っていようと、部屋の中にぐるりと視線を向ける。
僕の家にもある黒い箱…。
オメガに配布される、自慰のための道具…。
だがその箱は、僕の同様空いておらず、眠る縫井さんの顔を盗み見た。
(道具も使わずに……ヒートに耐えてるの?
そんなこと可能なのかな……)
彼女は、自分の服で巣を作り…
国から配布されている慰み品も使わない……
ただ、その小さな手に握る、かっちゃんから貰ったネクタイだけを頼りに
地獄のようなヒートを耐えている……。
(そんなのって……
そんなのって、無いよ…あんまりだ)
どれだけのオメガが、こうして一人きりで耐えているのかは知らないが
かっちゃんは、縫井さんのことが好きなはず。
なら、縫井さんがこうして苦しむ意味も、本来ならないはずだ。
(かっちゃんが……さっさと噛んだらいいんだ
そうしたら、縫井さんは、ここまでの苦しみからは、開放されるのに)
眠り続ける縫井さんを眺めながら溜息をつく。
(縫井さんが好きな人が轟くんなら、
縫井さんも今頃こんなに苦しまなくて済んだだろうな…。
せめて、縫井さんが巣を作れるように、洋服を貸してもらおう…。)
緑谷は、そう心に誓って、胸元を握りしめた。
(僕が爆破されるのは、別にいい……
怒らせたとしても、かっちゃんの気持ちを聞こう。
なかなか天邪鬼だから、認めさせるのは大変だろうけど、
かっちゃんは、縫井さんが絶対好きなんだから…。
わかってくれるはずだ。)