第14章 I am lonely
翌日、朝一番に声をかけようと思ったけれど
かっちゃんに、授業休ませることになってはいけないから、放課後に言うことにした。
(どっちみち、昼くらいまでは昨日の薬が効いているだろうし…。)
「なぁ、緑谷」
全授業を終えて、さぁ話しかけるぞ!と思ったところで、突然かけられた声に体が跳ねた。
「轟くん!はぁ…びっくりした…」
「悪りぃ、なぁ くるみ…もしかしてヒートか?
昨日から連絡が取れねぇ」
「あ……うん、そう…なんだけど…」
縫井さんの名前にかっちゃんの意識が、ほんの少しこっちに向いたのがわかった。
(これで少しは、話しかけやすくなった!ありがとう、轟くん!)
僕は、かっちゃんの肩を掴んで、帰ろうとするのを引き止める。
「あ゛!?クソデク…何触ってきたんだ?死ね!」
昨日からヤケに機嫌の悪いかっちゃん…いつもの吠える感じじゃなくて、本気で怒鳴ってくる。
あまりの威圧感に手を離しそうになったけど、縫井さんの辛そうな顔を思い出すと、かっちゃんに怒りさえ感じて…睨みつけた。
「…縫井さん、ヒートがはじまった…」
「あ?だったらなんだよ」
「かっちゃん…本当に縫井さんと番(つが)いになる気がないの?
本当は…番いにな…」
「ねぇ」
「え?」
「ならねぇって言っとんだ。
ンで俺があんなクソオメガと。
俺はオメガ性とは番うつもりはねぇ」
「番わねぇのか……」
そう再度問いかけたのは轟くん…。
僕は轟くんの左側に立っていたから、見える横顔は、紅髪にエンデヴァーそっくりの冷たい瞳で…
友達なはずなのに、思わずゾッとしてしまった…。
「しつけぇな、番わねぇっていっとんだろうが!」
轟くんがかっちゃんを殴ると思って、体を固めた。
けど…
轟くんは、「そうか…」と静かに言うだけで、かっちゃんに背を向け、自分の席の方へと戻っていく。
「なら…文句はねぇよな…」
言い残して、教室から出ていった轟くん…。
かっちゃんの方を盗み見ていた僕は、
一瞬、かっちゃんの瞳孔が開いたように見えたけど……
それ以上、何も言えなかった。