第13章 I am a egg
「東京…?!」
廊下に響いた自分の声に、思わず口元を押さえる。
「危ねぇって言っただろ
何でそんな無茶な事を…」
《ごめんなさい……
ほんとに、行っても…意味は無いって、分かってたの…
でも、いてもたってもいられなくて…》
怒っているわけじゃねぇ
いや…怒っているのは怒っているが…
怒りより心配が先立つ。こんな危険な時間に、くるみが治安の悪い東京の街を1人でうろつくのは危険だ
「俺が、迎えにいくから…」
痛む左手を見つめながらそう言うが、
《大丈夫だよ》
と、ハッキリとした声が耳に届いた。
《お父さんが、迎えに来てくれるから、大丈夫。》
「そう…なのか?」
《実家横浜だし、近いもん》
確かにそう言っていたことを思い出し、安堵する。
「なら…いい…
ただ、心配だから…家ついたら連絡くれ」
《うん…余計な心配かけてごめんね》
でも本当に何もなくて良かった。と付け加えてくるみとの電話は終了した。
俺は椅子の上でその後もしばらく、動くことはできなかったが
くるみとの会話を何度も何度も思い出して
自分が今生きていることに感謝していた。
生きていれば、くるみの笑顔が見られる。
こうして声を聞くこともできる。
胸を締め付けられる痛みを、感じることができる。
この痛みさえも、くるみがくれたものだと思えば愛おしい。
こんな気持ちを、失いたくない…。
ーーーとんだマゾヒストだ。
そう自分を罵って見ても、乾いた笑いが口から漏れた。