第12章 I am an Alpha
「おはよう、緑谷」
そう声をかけられて、横を向くと、どこかスッキリした表情の轟くんがこちらを見下ろしていた。
「おは…よう」
昨日とのあまりの違いに、思わず言葉がどもったけれど
轟くんは、何食わぬ顔で靴を履き替えて、僕の後ろをすり抜けた。
「行かねぇのか?教室」
「い、行くよ!いくいく!」
慌てて下駄箱を閉めて轟を追いかける。
(もしかして…昨日のは見間違い…なのかな?)
横目で轟くんを見上げるけれど、うん、いつもの轟くんだ
クールで冷静な、轟くん。
その日の放課後、
オールマイトと職業訓練のことを話すために、休憩室までの廊下を歩いていると、窓から下校中の生徒がちらほら見える中に
轟くんと縫井さんが一緒に歩いているのが見えた。
いつもの如く、縫井さんが一生懸命話しているのを、真摯に聞いてあげている雰囲気だ。
轟くんの横顔は穏やかで、落ち着いていて
僕の疑念は確信に変わった。
「やっぱり、昨日のは見間違いだよね」
あんな獣みたいな轟くんは、らしくない。
縫井さんがかっちゃんを好きなこと、轟くんは誰より知っているだろう。
冷静な彼のことだ、きっと感情の落とし所もわかってるに違いない。
そう思うと、一気に軽くなる心。
「っと…急がなきゃ」
踏み出す一歩も軽くて、うん、そうだ。
世の中そんなに残酷じゃない。
オメガで無個性だった、二重苦の僕だって、こうして雄英高校ヒーロー科に入れてるんだから。
そう思うと、浮き足立つ心。
職業訓練、楽しみだなぁ…!