第12章 I am an Alpha
真っ黒いその箱の中身を開けたことは無いが、中に入っているものは大体想像がつく。
僕は男用の物が入っているはずだけど、縫井さんは女用の物が入っているのだろうか…
そう思うと、思わず顔が熱くなり、同時に罪悪感に苛まれた。
気を紛らわせるように、次のページをめくると、【発情期抑制剤を服用しなかった場合の注意事項】の見出し。
僕らオメガには、基本強姦罪という法律は適応されない。
フェロモンを撒き散らした状態での外出や、アルファ・ベータとの会合は、
万が一襲われても、オメガの不注意ということで処理される。
難しい問題で、いつもニュースでは評論家たちが議論しているが、
実際にはオメガに対する強姦は日常茶飯事なことで、
縫井さんみたいに首輪で自身を守ったり、ヒート時には外出を控えるってのが得策。
根本的な解決策は見つかっていない…。
生きづらい世の中だと思う…。
けれど、悲観せず、まるでオメガバース前の人たちみたいに、
性に惑わされず、自分の意思で恋をしようとする縫井さんは、本当に眩しく思えた。
屈折のない笑顔を思い出していると、スマホがポコンと音を立てた、LINEが届いた音だ。
カバンからスマホを取り出してみると、ちょうど思い出していた人からの連絡で…
連投されるスタンプに思わず笑ってしまう。
【爆豪くんとファミレスでお勉強したの!!!!!!】
もちろん見てたから知っている。
縫井さんが嬉しそうだったことも、
2人がすごくいい雰囲気だったことも。
【よかったね!!!】
そう返すとすぐに付く既読。
もしかして、同じものが轟くんにも届いているのだろうか…
そう思うと、上がっていた口角は力をなくして下がっていく。
「僕は…どうしたらいいんだろう」