第2章 I am happy
「さっさと直せ」
と呟くと、くるみはご褒美でももらった犬のように頬を綻ばせて笑う。
『うん!あ、待っててね』
近くにあった食堂の椅子にちょこんと腰掛けると、膝の上に出したソーイングセットから糸を選んだ。
『灰色…無いな
でも、黒だと浮いちゃうし…』
くるみはうん、と頷いて薄ピンク色の糸をより分けると針に通しで慣れた手先でボタンを縫い付けた。
1分もかからぬ間に縫いついたジャケットを広げて『うん!』と頷くと爆豪に差し出す。
『あの、ありがとう爆豪くん
爆豪くんが、助けてくれたから…すごく嬉しかった』
俯きがちに言うくるみから、爆豪はジャケットを乱暴に奪うと
「だから、助けたわけじゃねぇ」
と羽織りながら答えた。
そんな冷たげな言い方にも、くるみは首を横にふり
『ううん、勝手に嬉しいだけだからいいの
爆豪くんは、ヒーローだね!』
両指先だけが覗く大きめの制服で、口元を隠して照れたように笑う。
そんなくるみの姿に不覚にも、胸をときめかせてしまった爆豪は、そんな胸のトキメキを振り払うように自分の頭をガシガシとかき乱し
「もう話しかけてくんなよ!クソオメガ!」
と唸り声をあげて立ち去った。
くるみはまだ乱雑の少し残る学食の中で、クスクス笑う。
クソ女と呼ばれたのに、なんとも嬉しそうに笑うこの女は、くるりとスカートを翻して教室に小さくスキップして帰っていった。