第2章 I am happy
程なくして、無事人波は順に流れ始め
くるみを押し付けていた人も、少しずつ距離を開けていった。
というのに、まだ爆豪の腕の中に収まるくるみ
「おい、離れろ」
『あ、ご、ごめん!』
くるみは爆豪の胸元を握っていた手をパッとはなして体を離そうとするのだが
『っいた…』
髪を何かに引っ張られる感覚に顔をしかめる。
痛みの先は、爆豪のボタンで、くるみの緩やかに巻かれた茶毛が絡まってしまっていた。
「あ゛」
『わ…ちょ、ちょっと待ってね』
くるみは細い指で絡まっている所をあくせくと直すのだが
指先が震えてしまってうまく直せない様子で
ポケットの中を漁ると、小さなソーイングセットを取り出し、絡まっている髪を一房手に取るとはさみの刃を当てようとしたのだが
その手を爆豪が掴み、小さなハサミはカツン!と音を鳴らして床に落ちた。
「何しとんだテメェは」
『えっと…絡まってる部分を切ろうと…』
くるみがなんで止められたのかわからない様子で首をかしげると、爆豪は「んなことしたら、そこだけ短くなんだろうが!」と吠える
どけろ、と言われて離された指先から絡まっている部分を奪うと「めんどクセェ絡まり方してんな」とブツブツ言いながら解こうとする。
だが、なかなかに絡まっている髪の毛とボタン。
爆豪は舌打ちをしてくるみがさっき落としたハサミを床から拾い上げた。
そして、パチンという軽い音を立てて、ボタンを制服から取り離す。
絡まっていた髪は、ボタンとともに解けた。
『ありがとう…』
礼に対して爆豪はなにも言わずに立ち去ろうとしたのだが、くるみに腕を掴まれて振り返る。
「まだなんか用かよ」
『あ…えっと、ボタン…縫わせてくれないかな』
くるみの視線は、さっき髪を解くために制服から切り離したボタンに向けられている。
爆豪は小さく舌打ちをしてジャケットを脱ぎ、くるみに被せた。