第11章 I am a liar
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「あれって…もう、バクゴー完全に…
くるみちゃんのこと好きじゃね?」
そう呟いた上鳴の声に、顔の筋肉が強ばるのが分かった。
「だよな…」
「バクゴーもあんな顔するんだー…」
それに続いた同意の声と、
緑谷が息を呑む音。
それから
【まだ絶望なんかしてんの?】
脳を揺らすような声にハッとして横を向いた。
いつの間にか、緑谷も、上鳴も、芦戸も峰田も居なくなっていて
何も無い真っ暗な空間に、
1人、
俺だけが浮かんでいる。
【なにをそんなに期待してた?】
もう一度声がして、そっちを向くと
目の前にいたのは、
紅蓮色の髪色、ゆっくりと開いた瞳は両目ともエメラルドグリーン
髪色も、目の色も、そして顔そのものも
俺のものとまるで同じ…。
正しく言えば、俺の左側がフルタイプになったような容貌だ。
「何が言いたい…」
問いかけると、紅蓮の男はニヤリと笑った。
【見てみなよ…】
男が言うと、暗い空間にスクリーン映像のように2人の姿が投影される。
嬉しそうなくるみと、まんざらでもなさそうな爆豪の姿…。
思わず目を背けたくなったけれど、男は俺の頭を掴んでそれを許さない。
【君の「運命」が、他の男に取られそうだ】
「…それはねぇ
爆豪にその気はない」
【そうかな?
でもあいつもアルファだ…可能性はゼロじゃない】
そうだろ?と向けられた顔を睨み返す。
こいつは俺の中の悪魔なのだろうか
ならばこの場合、天使とやらも出てくるのが定石だろう。
けれど、見渡しても、白いはずのそいつは現れず
ただ耳元で囁く紅蓮の男の声だけが響く。
【噛んじゃえ】
「…そんな、ことは…」
【できないか?
「運命」だから待ってれば、自分のものになってくれると?】
バカにするように覗き込んでくる緑色の瞳にイライラした。
同じ物が俺にもハマっているのだと思うとその苛立ちは増す。