第11章 I am a liar
『そろそろだっけ?職場体験』
雑誌をバッグに収めながらくるみが首をかしげる。
ふわりと揺れる焦がしキャラメル色が窓から差し込む夕日に照った。
「来週から、一週間だ」
『轟くんは、お父さんのところいくんだっけ?』
「あぁ」
『頑張ってね』
ニコッと笑うと、また何事も無かったかのように携帯を弄り始める。
『爆豪くんは、横浜だって。
ベストジーニスト事務所』
「そうか」
『ね、横浜いったら見れたりするかな?
実家近いし…帰ってみようかな…』
探るような上目遣いの視線。
これで俺が行くなと言ったら行かないのか?
時々そんなよくわからない質問をされると、返答に困る。
ただ、適当に視線をそらして
「あの辺は危ねぇ…今は近寄らねぇほうがいい…」
とだけ答えた。
『そっか
じゃあ、そうする』
あっさり受諾された答えに、ほんの少しだけ生まれる優越感。
このまま、アイツはやめといた方がいいとでも言ってしまえば
同じように受諾してもらえないのだろうかと
そんな安易な想像に、動きそうになった唇を噛む。
『なら、来週は轟くんに会えないんだね』
いつもより耳に響く声に、顔を上げると
少し前のめりになったくるみが不安げにこちらを見ていた。
『さみしいな』
「さみ……」
予想外の言葉に頬が熱くなっていくのを感じる。
『だって、一週間も合わないの…ほらあの時くらいだし』
【あの時】…というと、ヒートの時のことだろうと、理解して
「そうだな…」と返事をする。
そして続けて、くるみの目を見つめ
「1ポイント」と呟いた。
やっぱり嘘をつくのは良くねぇから…
ときめいたら、ちゃんと言わねえとな…
それなのに、くるみは小さな唇から間抜けた声を出した。
『えぇ?』
「…なんだ?」
『今、…ポイント貰えること…
なにもしてない…よ?』
その言葉の意味を理解した時、俺の頬の熱はさらに温度を増す。
驚いた拍子にぶつけた紙コップが、机に倒れて水溜りを作った。