第10章 I am running
『きれー…』
多古場海浜公園の石門を抜けると、夕日の指した海はキラキラ反射した。
くるみは赤いスニーカーと靴下を投げ捨て、一目散に海に足を付ける。
『冷たい!』
「たりめーだろ、まだ五月だぞ」
『でも、気持ちいいなー
ほら、上も足元も、オレンジ色』
爆豪くんの色だね、とくるみは笑った。
(こいつがオメガじゃ無けりゃな…)
一瞬そう思って、首を振る。
(何考えてんだ…オレは…)
ヒーローになって、高額納税者ランキングに名を刻み。
アルファと結婚する。
そして息子も次世代のヒーローに…。
それが王道の勝ち組ルートだ。
たまに、【運命】が云々だとか、
ヒートにやられてなし崩しにつがいになる奴らもいるが…
有名ヒーローのつがいは大体アルファだ。
最初はこいつも、アルファ狙いで俺に近づいとんかと思ったが
そうでもないらしく…
(半分野郎もアルファだしな…)
ただ単にアルファとつがいたいだけなら拒否ってる俺じゃなくてもいいはずだ。
ということは、こいつが「好き」だのなんだの言っとんのは
(本気で俺が好き…ってこと…なんか)
クルクルと回るたび、足元で跳ねる水しぶき。
旋回するスカートがひらり。
首輪のベルトが、反射する。
(きっとこいつは俺の【運命】じゃねぇ……
じゃないくせに…なんでこんなに…心奪われんだよ)
目の前の光景をただ静かに見つめる爆豪は、ほんの少しだけ顔を歪めた。
悔しそうに、苦しそうに…