第10章 I am running
『また…?』
くるみは真っ赤な顔のまま、だが今度は泣きそうになりながら、こちらを上目遣いに見つめてくる。
下唇をキュッと噛んで、潤んだ瞳を向けてきた
その手はほんの少し震えていた。
『また…こうやって、一緒に帰ってくれる…の?』
(帰るくれぇで…こんな反応すんなよ…)
みるみる涙が溜まっていく瞳は何色にも例えがたい色に輝いた。
雨のあとの水たまりに写った虹のような輝きに
しばし視線を奪われたが
ポケットに突っ込んだ片手がピクっと動いて、その柔らかそうな頬に触れると
零れた涙を親指で拭ってやる。
「泣くな、ブス。
時間が合や帰りゃいいだろうが…同じ方向だろ」
『うん…!うん!』
「いいから飲め、まだ歩くぞ」
『それはダメ、これは、神棚に飾るの!』
「ンでだよ!」
結局、缶ジュースは大切そうにカバンの中に収められて
くるみはちょこちょこと爆豪の数歩後ろを追いかけながら
一生懸命話しかけた。
内容は、体育祭のことで、
爆豪のすごかったシーンを延々褒めたたえる。
『爆豪くん、あの瓦礫をバーン!ってやったのすごい威力だったよね!
あれ最大?熱風が凄かったー!映画みたいだったよ!』
「あ゛?あぁ…素手だとあれが最大威力だ。
篭手つかやもうちったァいける。」
『すごいなー、ヒットポイントの上限高いなぁー』
小走りに近づいて、覗き込んでくるくるみはうっとりと俺を見上げる。
「丸顔ボコってた時の試合だろ、引けや
相手女だぞ」
『んーん、引かない。
だってあの時の爆豪くん最高にヴィラン顔で
かっこよかったもん♡』
「だからソコを引けや」と言いかけた言葉は、汐風に消えて…。
開けた海に反射する夕焼けに息を飲んだ。