第10章 I am running
『なん、で…』
ポカンと口を開けるくるみを見下ろしながら舌打ちをする。
放課後の普通科教室前、俺は周りから注がれる視線に睨み返して
もう一度くるみを見下ろした。
「帰んだろ、早よしろ」
『かえ、かえ、カエル!』
くるみはバタバタと机にぶつかりながらカバンを取って来ると、
『お待たせしました!』と、廊下に飛び出てきた。
探るような視線が背中を追いかけてくる中、
数歩の距離を開けて、くるみが後方をついて来る。
『ば!爆豪くん』
折寺駅で降りて数分だった頃、後からの声に振り返る。
「あ?」
『あ、あの…どこ、向かってるの?
家はあっち…だよ?』
折寺に帰るなら曲がるはずの角を指さしながらくるみが小走りに近寄って来る。
立ち止まる俺の隣に立つと『間違っちゃった?』と覗き込んで来た、
その女の頭をガッ!と掴んで顔を近づけた。
ーーあぁ…この匂い…オメガの、雌の匂いだ。
「間違ってねぇわ、カス」
くるみはキョトンとしたが、また先を歩く俺について小走る。
(マジに犬飼ってる見てぇな気分だな…)
その道の途中、見つけた自販機でジュースを買ってくるみに放り投げた。
「ん」
『わっ!』
くるみは投げられたジュースを両手で器用に受け取って、こちらを見つめる。
俺はプシュッと缶を開けて、コーラを喉に流した。
『ば、くごうくん』
「あ?」
『これ…あの…』
「んだよ、飲めや」
『…えっと…これ、くれるの?』
「いらねぇんか」
『いる!いるし!神棚に飾る!』
「飾んな!飲めや!舐めとんのか!」
そう言ったのにくるみは『やだ!勿体無い!』と缶を抱きしめてヘニャヘニャに崩した顔で笑う
「……んなもん、また買ってやるから
いいから飲めって」