第10章 I am running
「よかったな…」
できるだけ冷静に、できるだけ、悟られないように笑顔を作ってみせた。
くるみは嬉しそうに飛び跳ねると、スマートフォンで口元を隠してクスクス笑う。
『何でいきなり、連絡先おしえてくれたんだろ?
この間も、諦めないでいいって言われちゃったし…
これって脈アリなのかな?!』
くるみが聞いてくるが、轟は空を見たまま答えなかった。
『轟…くん?』
心配そうに、轟を覗き込むくるみ。
轟はくるみを見てまた適当に笑顔を作ると
「どうかしたか?」と問いかけた。
『ううん…やっぱ轟くん、調子悪そう…大丈夫?』
「あぁ」
『病院行った?どこが悪かった?』
「いや…これは
治らなくていいんだ。
治せるもんでもねぇ」
くるみは言葉の意味がわからないのか、
『そう…なの?』とだけ呟いて、また轟を見つめる。
『なにか、相談に乗れることあったら言ってね?』
「あぁ、ありがとな」
にこやかに笑うこいつは俺の気持ちを知らねぇ
でも知らなくてもいい…
こいつが爆豪を好きなら、
俺の気持ちなんて知らないままでいい
高校一年生の、初夏
俺は恋に出会った。
泣きたくなるほど、綺麗で
残酷な恋だった。