第10章 I am running
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あのクソ女の名前が聞こえたのは、朝イチの教室。
「くるみから返事が来た。」
少しだけ弾んだその声に、まだ教室に入る前のオレは
ドア横で思わず立ち止まった。
「良かったね!
あ、ほんとだ…僕にもLINE来てる」
轟の声に返事を返すのは、デク。
(ンでてめぇが、くるみの連絡先まで知っとんだ…)
その後すぐに話題は別の方向を向き、それ以上何も聞くことはできんかったが…
気をつけて見てみると、轟のカバンに付いているキーホルダーは、くるみが入試ん時もっとったモンと同じで…
全く同じもんを買うなんざ偶然あるはずがねぇから
(んだよそれ、貰ったんかよ…)
別にあの女なんざどうだっていい。
どうだっていいはずなのに
イライラして、モヤモヤして、
帰りに少し遠回りなはずのあいつの家の前を通っとった。
角を曲がってすぐの洋風のマンション。その道の先を歩く、赤い靴の…
「デク……」
デクが振り返って、手を振る。
その視線の先を見れば、くるみが部屋のベランダからデクに向かって手を振っている。
(どうなっとんだ…)
結局いつもの道に戻って帰宅すると、ドアを乱暴に閉めて床に座り込んだ。
「デクがなんで…あいつの家に…」
分からねぇ、分かんねぇけど腹は立つ。
あのクソナードが女と仲良くすんのは腹が立つ。
それだけ、それだけだろ。
オレが怒っとんのはそんだけの理由だ。