第10章 I am running
『本当に、ありがとね
もー…親元離れて初めてのヒートだったから…
1人で過ごすヒートがこんなに辛いと思わなかったよー』
笑う彼女のすぐ横のベッドを見ると、
ベッドの上にあった大量の服はもう全部片付けられていて、
床に散らばっていたバランス飲料や、カロリーメイトの空箱も、ゴミ袋にまとめられていた。
「もう、大丈夫そう?」
縫井さんは僕の前に座ってニコリと笑った。
『大丈夫だよ、ありがとう』
「轟くんもすごく心配してたんだ。
お見舞いに来たがってたけど…その…」
『轟くん、アルファだもんね。』
「そう…だね」
僕は轟くんのことを話題に出してしまったことを後悔していた。
『轟くんは、優しいから…
ずっと連絡くれてたの。
今朝やっと返せたんだけど…』
轟くんのことを話す時の縫井さんは、とても落ち着いている。
でも、ベッドサイドの小棚の上に綺麗に畳まれた赤いネクタイが、縫井さんが好きなのは轟くんじゃなくて、かっちゃんだって思い知らしてくる。
(でも、かっちゃんは、連絡なんかしてこないだろうし…
もっと言えば、縫井さんの連絡先さえ知らないんだと思う。
だとしたら、轟くんにもチャンスがあるんじゃないかな……)
『あの…デクくん…』
呼ばれてハッと顔を上げると、縫井さんと目があった。
モジモジと指先を交差させながら上目遣いにこちらを見つめてくる。
『この一週間の…爆豪くんのこと、何でもいいから教えて欲しいな…』
それなのに、くるみさんが好きなのは、やっぱりかっちゃんで…
でも…
(なんで、かっちゃんなの?)
なんて聞く勇気、僕にはなかった。