第9章 I am lucky
『緑谷くん…なんで…きて、くれたの…』
物を口にして少しは楽になったのか、息絶え絶えにくるみさんが聞いてくる。
「無断で休むなんて、ヒートだろうなって思ったし…
1人でヒート乗り越えるのって、地獄だし。
他に何か手伝えることある?
うちの高校、僕らしかオメガ居ないんだから色々頼ってよ。
で、できる範囲だけど……助けたいんだ」
『ありがと…
さすが、ヒーローの卵だね…』
縫井は力なく笑うと、
ベッドの中でもぞもぞと何かを探した。
その狭いベッドの上には、クローゼットから引っ張り出せる限りの布類を引っ張り出して来たのか、
くるみの寝るところを囲うようにシャツやらスカートが積まれている…
「…これって……」
それに気づいた緑谷は、足元に触れるTシャツを一枚手に取ると、心配そうにくるみを見つめた。
『巣……作ってるの…
本当は……爆豪くんの服で作りたい…けど
爆豪くんの服なんて持ってないから…作れなくて……
辛いけど、
でも、これがあるから…』
彼女の異常とも取れるこの行為は、オメガのヒート時特有の【巣篭もり】だ。
本来であれば、好きなアルファの匂いが付着した物…特に衣類を身の回りに集め、【巣】を作り、ヒートを少しでも和らげようとする。
くるみの手元には、赤色のネクタイが握られていて、
それを緑谷に見せると、薄く微笑んだ。
『…爆豪くんがくれたネクタイなの。』
ぎゅっとそれを握ると、巣の中にもぞもぞと収まっていった。