第9章 I am lucky
「学校に行く前にね、お母さんに頼まれて手錠と足枷をつけてあげるんだ…。
外に出て、アルファを求めないように…。
一人で迎えるヒートは地獄だって、母さんいつも言ってる…
『私は、父さんと結婚したこと後悔はしてないけれど、出久はアルファと幸せになるのよ』って…。」
そこまで一気に話して、緑谷はため息をついた。
聞いているだけの俺でさえ、ゾッとしてしまうような話に、思わず口元を抑える。
アルファのヒートは、オメガのフェロモンに反応した時だけだ。
周りにオメガが居なかった俺からしてみれば、
経験したのは、この間、くるみに噛みつこうと犬歯が鋭くなった、あの時だけ…。
それも、くるみの本気のフェロモンではなく、体から発される微細なフェロモンへの反応だから、俺のヒートだって本気じゃない。
それでもあれだけの欲情だ、本当のヒートがどれほど辛いか…想像に難しい。
「くるみさん、一人暮らしだって言ってたし…
もし、一人でヒートを迎えてるなら…かなりヤバイと思うから…
僕、帰りに寄ってみるよ…」
立ち上がる緑谷に
「俺も行く。」
と言ったが、ハッキリ「ダメだ」と断られた。
「アルファは、近寄らないほうがいいと思うから…。
轟くん、オメガフェロモンの抗生剤も飲んでないでしょ?」
結局、
俺は、緑谷の背中を見送ることしか出来なかった。