第1章 Red Lip
「……虎徹さん。」
穏やかに呼び掛けると、漸く僕に気付いた虎徹さんと彼女の唇がパッと離れた。
「エエッ!?
あ……バニー!?
いや、これ……違うんだッ……
何か急に……そのッ……」
いや、僕に対してそんな必死に言い訳しなくてもいいんですけど。
ふーん……それでもさんを抱き締める腕は解かないままなんですね、虎徹さん。
「どうやら…離れる気は無いようですね。」
腕を組んだ僕は2人に向かって冷ややかな声で問う。
するとさんは虎徹さんの胸にしがみ付くように一層身を寄せてから……微笑んだ。
その微笑は明らかに僕に向けられている。
得意気で、見せ付けるような……女性特有の妖艶な笑顔。
……流石にカチンと来ちゃいますよね、それ。
「いくら人通りが少ない場所だからって
こんな往来で何をやっているんですか、貴方は!?
ヒーローとしての自覚が無いんですか?
誰かに見られでもしたらスキャンダルになって、
結局パートナーである僕にも迷惑が掛かるんですよ!」
僕が1人で捲し立てている間も、虎徹さんとさんは抱き締め合ったままだ。
ああッ……もうッ!
沸点に達したイライラに任せて、僕は虎徹さんの腕を掴む。
「行きますよ!」
「はァ?
行くって……ドコにだよ!?」
「僕のマンションです。
どうせ虎徹さんの家は汚くて女性を連れ込める状態ではないでしょうし…。
それに貴方達、まだ離れたくないんでしょう?
じゃあ、人目に付かない所へ移動しないといけないですから!」
「えええーーッ!?」
そんな2人を、拾ったタクシーに押し込んでから自分も乗り込み、僕は運転手にマンションへの道程を告げた。