第1章 Red Lip
店に入り彼女の姿を探してみても見当たらない。
当然虎徹さんも居なかった。
まだ残っていた女性スタッフに彼女の事を聞いてみる。
「ああ、さんなら……」
彼女、『』って名前なんだ。
「先程男性が訪ねて来て、裏口から出て行きましたよ。」
「裏口から……?」
「ええ。
何か今日の強盗事件について聞きたいとかで。
あの……あの男性ってワイルドタイガーですよね…って……
えっ……やだッ!
貴方、バーナビーさんじゃないですか!?
私ッ、貴方のファンなんです!
どーしよお……夢みたいッ!」
急にテンションを上げて僕をウットリと見上げる女性スタッフを、握手と甘いセリフで何とか宥めて……
やっぱり僕のファンは無下には出来ないですからね。
僕は適当にお礼を言うと、ジュエリーショップの裏口に向かう。
スタッフの通用口だろうか……
ジュエリーを扱っている華やかさなど欠片も感じない地味なドアを開けると、そこはビルとビルに挟まれた細い通路だった。
既に薄暗くなっていて、人通りは全く無い。
だけどそこから更に奥まった場所に、僕は2つの人影を見咎める。
その2つの影は重なり合っていて、2人の間に隙間は全く無いようだ。
逸る気持ちを抑え込み、その人影にゆっくりと近付いていけば………
そこではさんを壁際に追い詰めた虎徹さんが、覆い被さるようにしてあの赤い唇を貪っていた。
無理矢理に襲っているのか……
そう色めき立ったけれど、さんの両腕が虎徹さんの背中にしっかりと回っている事に気付き、一応同意の上での行為なんだと胸を撫で下ろす。
それにしても……
僕の存在に全く気付きもせず夢中でキスを交わす2人の姿を見る僕の中に、沸々と湧き上がる奇妙な感情………