第21章 背徳のシナリオ ~後編~
カウンターでサインを書いている虎徹さんの後ろから僕も声を掛ける。
「おはようございます、さん。」
「あ……おはよう、バーナビー。
今日もハンサムねぇ。」
うん、良ーく見なきゃ気付かないけれど、僅かに視線が泳いでますね。
だから僕はもう一押ししてみる。
「あの、お金返さないと。
昨夜は本当に申し訳ありませんでした。
もうさんのお望みの金額を言って……」
「いいのいいのッ!」
さんは僕の声を遮るように大声を上げて大きく両手を振った。
「でも………」
「あのねッ……
今日は何か経理部がバタバタしてて忙しいんだ!
ごめんねッ!
また落ち着いたら来るよ!」
そう言ってさんは慌ててオフィスを出て行く。
その態度には虎徹さんも少し不審さを感じたみたいだ。
「さん……ちょっと変だったな。
昨夜、何かあったのか?」
不安気に僕へ問い掛ける虎徹さんを見つめて
「ええ……実は……」
そして僕は正直に話した。
僕の方が酔い潰れてしまった事。
さんに支払いを任せてしまった事。
マンションまで送って貰った事。
「ははッ……
やっぱスゲーな、さん!
惚れ直すわ!」
幸せそうに笑う虎徹さん。
そんな姿を見せられると『全て』話してしまおうか……って思っちゃいますよ、僕。
そう。
さんにリップスティックを贈った事。
そのリップを塗ったさんの唇を奪った事。
この2つは話さないでいてあげてるんですけどね。