第21章 背徳のシナリオ ~後編~
「おはようございます、虎徹さ…」
「あっ…バニー!
昨夜は悪かったな!
さん、大丈夫だったか!?」
翌朝………
オフィスで僕の顔を見るなり、挨拶よりも『さん』ですか?
ふーん……
やっぱり………邪魔だな、あの人。
ああ、俄然やる気が出て来ましたよ。
だけど昨夜は僕の方が先に酔い潰れて、さんに送って貰うという為体をやらかしてしまった。
しかも女性に支払いをさせるなんて有り得ない愚行まで。
自分が考えていたシナリオとはちょっと方向性が変わってしまったけれど、でもこれはこれで上手く利用出来そうだ。
そう、相手があの人なら。
「あのですね……」
僕が昨夜の顛末を話そうとした矢先……
「鏑木さーん、またサインが……」
書類をピラピラさせながらさんがオフィスに入って来た。
「おはよー、さん。
昨夜はごめんなー。
つーか、また鏑木さんだなんて……他人行儀じゃね?
会社でも虎徹君って呼んでよ-。」
もう僕の存在など目に入らないかのようにニヤける虎徹さん。
「もう、オフィシャルとプライベートは別!
ホラ、ここ、サインして。」
へー……流石に大人ですね。
虎徹さんの隣に僕が居ても、さんは普段通りの態度だ。
昨夜、僕にキスされた気不味さなんかまるで感じさせない。
でも、僕はちゃんと気付いてますよ。
そのリップ……ちゃんと塗って来たんですね、貴女は。