第20章 kiss the glasses 後編
そんな事を考えながらトボトボと1人で歩く僕。
ふと目の端で捉えたモノに気を引かれその方向へ顔を向けてみると、それはブティックのショーウィンドウ。
華やかなマネキンが何体も並んでいる。
でも僕の目が捉えたのはその奥を彷徨く見慣れた帽子だったんだ。
そう、虎徹さんが店内に居た。
どうして、彼が女性用のブティックに?
楓ちゃん用?
いや……この店は30代女性向けの、しかもかなりな高級店だ。
小学生の楓ちゃんではまるで対象外だろう。
そんな事を考えている間に、答えはあっさりと導き出される。
そう、虎徹さんが視線を向けているフィッティングルームからさんが出て来たんだ。
勿論声は聞こえない。
でも2人のリアクションを見ていると、その遣り取りは手に取るように分かった。
これまでのさんからは想像出来ない、女性らしいパステルカラーのシフォンワンピースを着た彼女をきっと虎徹さんは大袈裟に褒め称えているんだろう。
そしてそうされたさんは、嬉しそうにはにかんで頬を染めている。
ああ……僕には一度として見せてくれた事の無い表情ですね。
どうしてこんな状況になっているのか……
虎徹さんを問い詰める事も、さんに確認してみる事も、自分で考える事さえもう億劫だ。
僕は視線を前に戻すと、何かを吹っ切るように早足で帰宅の途に着いた。