第18章 Tintarella di luna 後編
「まさか……
また貴方がここへやって来るとは思いもしませんでしたよ。」
少し皮肉を孕んだ私の言葉に、ワイルドタイガーはパチパチと目を瞬かせる。
「え?
どーしてッスか?」
それはこちらが聞きたいのだが……。
「ああ、随分と酔っていらしたから覚えてないのでしょうか?
あの夜のコトを。
バーナビーさんからお聞きになっていない?」
「…………。」
これには流石にワイルドタイガーも言葉を詰まらせた。
そして気不味そうに私から目を反らす。
ここで漸くカップに口を付け、少し冷めてしまったロシアンティーを一口飲み込んでから私はまたゆっくりと語った。
「そのご様子では、あの夜に何があったかお分かりなのでしょう?
ならばもう私とは関わり合わない方が……」
自分から欲しいと望んで、好き勝手に弄くり回して、満足すれば遠ざける………
いつから私はこんなに身勝手な人間になってしまったのか。
沈黙が続く中、店主がワイルドタイガーにコーヒーを運んで来た。
これ迄とは違う険悪な雰囲気を感じ取ったのか、流石に店主は無言のままカウンターへ戻っていく。
さあ、ワイルドタイガー……
お前もそのコーヒーを飲み干して、さっさと私の前から消えてしまえ。