第16章 if...
海難事故だった。
大型客船の沈没。
ヒーローだけじゃない。
警察もレスキュー隊も、とにかく大勢の人が全力で救助に当たった。
現場がシルバーステージの港湾地区に近かった事もあり、自力で逃げ出せた乗客が大多数だったのは不幸中の幸いだ。
船体がほぼ横倒しの状態になった船室を僕と虎徹さんで捜索して回る。
もう全員脱出したようだと胸を撫で下ろし自分達も船外に出ようとしたその時、突然虎徹さんが能力を発動した。
船内に入って来た海水の水圧で開かなくなった船室のドアをハンドレットパワーで抉じ開けた先には、逃げ遅れた1人の老婦人が。
虎徹さんは僅かな呻き声を聞き逃さなかったんだ。
ここから甲板に出るのは時間が掛かり過ぎる。
僕と虎徹さんは2人掛かりで船室の窓を破壊し、人1人が漸く通る事が出来る大きさの穴を開けた。
先ずは僕が外に出て、老婦人を引き上げる。
頭上を飛んでいたHERO TVの中継ヘリが僕達に気付いてロープを下ろしてくれた。
「さあ……虎徹さん、行きましょう!」
「先に行け!」
「え……?」
「あのヘリじゃ俺達3人分の重さには耐えらんねえ。」
「大丈夫ですよ!
3人ぐらい………」
「おいおい、バニーちゃん。
俺もお前もこのクソ重たいスーツ着てんだろ。」
「あ………」
「俺は後でいいから。
どーせ直ぐに救助ヘリが来るよ。
だからそのお婆さん連れて先に行ってくれ。」
「でもッ……」
「いいから行けって!!
3人で心中する気か!?」