第16章 if...
だって……だって……
もう1分経ってしまっている。
虎徹さんの能力はもう消えているハズだ。
船外に居る僕と船内に居る虎徹さんが入れ替わるには時間が無い。
「分かりました。
この女性を救助隊に預けたら直ぐにヘリを向かわせますから!」
「ああ……頼んだぜ、バニーちゃん。」
そして片手で老婦人を抱えた僕がロープに掴まって浮き上がった瞬間………
大きな音を発てて船体が一気に沈み始めた。
船底が崩れて急激に海水が入ったのか?
「虎徹さんッッ!」
見下ろした先では船内に取り残された虎徹さんが、僕に向かって笑顔でサムズアップしている。
「ダメだッ!
外へ出てッ……虎徹さん!
虎徹さんッ……
虎徹さああんんんッッッ!!」
宙吊りのまま叫び続ける僕の目が最後まで見続けていたのは………
サムズアップしたまま沈んでいくワイルドタイガーの右手だった。