第21章 背徳のシナリオ ~前編~
「で、でっかいマンションだね……」
僕のマンションの前で一緒に降りたさんが呟いた。
「部屋のカギ、大丈夫?」
「はい……すいません……うっ……」
「部屋まで送ったげるから、頑張って……」
僕の腕をとって肩にかける、さん。
背が高い彼女は、肩幅もなかなかガッシリとしていて……頼りがいのある感じで……
僕はそのまま、部屋まで送ってもらった。
自分でカギを開けて、ドアも開けると雪崩れ込むように床に座った。
さんは、その様子を見て。
「よしっ!もう大丈夫だね!じゃあ、また……」
「さ……」
僕はとっさに、彼女の大きな手を握った。
「ん?どしたの?」
少し驚いた様子のさん。だけど優しく笑っている。
「まだ、見てない……」
「ん?」
「僕が贈ったリップスティック……塗ったところを、見てない……」
「あー、食後に塗るって言ってたね!忘れてた!明日、会社に塗って行くよ!」
「いや、今……見たい……」
「えーもう帰るだけだし……」
「お願い……」
僕は上目使いで下からさんを、見上げた。
酔っ払いの戯れ言だと思った彼女は、甘えればきっと簡単だ。
「仕方ないなぁ~……」
バッグからリップスティックを取ると、少し後ろを向いて、パッと塗りすぐに振り向いた。
「どお?」
「思った通りだ、凄く似合ってますよ」
「ふふ。酔っ払ってても、男前だと嬉しいわ~」
ケラケラと笑うさん。
「少し……はみ出てる……」
僕は立ち上がると、さんの唇に手を添えた。
「へ?」
そして、拭うフリをして……
さんの顔を僕に近付け……
キスをした。