第2章 笑顔が下手な君。
理解出来ない。菊乃の甘いと呼ばれる理由はそこである。敵も味方も関係なく手を差し伸べるポートマフィアの上級幹部の白雪菊乃。なにもお咎めなしなのはそれ以上に菊乃の功績が誰よりも群を抜いてトップだったからだ。
「私がいる組織は大きい。流石にポートマフィアへ喧嘩を売る人間は少ないだろう…傘下に下れば、貴方の部下は勿論、大事な家族も皆守ると私が誓おう。どうだい、いい話しだろう?」
計算なのか、それとも本当に目の前で痛みに耐えて床に伏せる彼等を助ける為なのか分からなくなる、あの笑顔にそっと手を差し伸べられたら…誰だって手を取りたくなるだろう。
「よ、宜しくお願い致します…白雪幹部」
「うん、宜しく頼むよ…」
首領に直接連絡を入れる菊乃の後ろ姿を目に焼き付ける。誰も殺さず、殺されずでこの場を収めてしまった。治は先ず医療班を呼ぶよう部下へ指示を送る。電話中の菊乃と目が合った、口パクで『ありがとう』と云う言葉に戸惑いはあったが嬉しさの方が勝った。今僕はあの菊乃さんに頼られている!それだけで面倒でやる気のおきない後始末さえ楽しいものに思えた。
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「治、君…随分と綺麗に笑うようになったね」
「菊乃さんに言われましたので…変、でしょうか?」
「いや、元々君は綺麗な顔をしていたから…可愛らしいよ」
「あはは…か、可愛いです、かね?」
治は男に可愛いと云うのは少なからず複雑に思うも、穏やかな声と一緒に頭を撫でてくれる菊乃に片想いを寄せる少年のように気恥しさともどかしさを感じながらも、心地よい雰囲気に目を閉じた。
「もう治は立派な幹部補佐だねー」
「僕はまだまだですよ」
「…君といい、紅葉といいどうして謙遜するのかな。ふふ…まぁいいけどさ。あぁ…そう言えば紅葉の部下に新しい少年がマフィアに入ったようだね。確か治と年が同じだったと書類の報告を受けたのだけれど…」
「あぁ、彼ですか…そうですね。菊乃さんは気にしなくていいですよ?」
ピシャリと話しを無理矢理折ったであろう治はにっこりと笑う。その表情から察するにこれ以上聞いてくるなと云う気持ちは痛いくらい伝わった菊乃は首を傾げながらも苦笑いを浮かべた。
「菊乃さんは僕だけを見ていればいいんです」