第2章 笑顔が下手な君。
ゾッとした。治は勿論…先程の菊乃の能力を体験したモノは少ない為、一体なにが起こっているのかが分からなかったのだ。それは敵であるボスも勿論の事、撃っているのは菊乃で。先程と同じように治と同じ能力で粉砕する。そして目の見えない速さで拳銃を撃ちボスの拳銃を弾き落として捕獲する菊乃の姿が写る。治は酷く混乱していた。今の異能力はなんだ…まるで同じ映像を見ていたかのように感じられた未来の出来事を、目の前で行いボスを捕獲して本を閉じた菊乃が恐ろしいと思った。強い、いや…強いと云う次元を既に超えてしまっている。絶対的王者の貫禄、首領は勿論。森鴎外が心から信頼する底知れない異能力の強さと、それを軽くカバー出来る体術と銃術、そしてなにより身体能力が人間じゃないだろうと思う程の身のこなしに身体が震えた。恐怖ではない、憧れに近い緊張感と高揚感だ、武者震いに近いだろうこの興奮した感情を今はぐっと抑えるのに必死だった。
「誰も死んではいないね…」
「あっ…白雪、幹部…ぼ、僕っ…」
「うん、大丈夫…良く頑張ったね。皆無理をして私に着いて来てくれてありがとう、本当に無事で良かった…」
自分自身より周りを感謝し心配をして、優しく微笑むから部下全員の心を鷲掴みにして『白雪幹部!!』と悶えていた。そして菊乃信者が増える一方で治もまた菊乃に近付きたいと、褒めて貰いたいと心に決めた瞬間である。
「俺を殺せ…」
「まだ情報を吐いていないから殺せないよ。それに貴方にだって家族がいるでしょう?」
「!!や、止めろ!家族には手を出すな!」
「ふふ。取り引きですよ…麻薬の在り処、情報を吐いて下さい。ね、簡単でしょう?」
ずっと穏やかな口調で話す菊乃に、ボスは喉唾を飲み込んだ。ぽつりぽつりと話す情報と麻薬組織の在り処を話せば、直ぐに連絡するよう部下に伝える。
「例え私が今の間だけ貴方を殺さず放置すれば、きっと血眼になって麻薬組織の人間が貴方は殺しに来るでしょう、家族もきっと皆殺しです」
「……っ」
「ここからが交渉です、貴方の家族思いな所に素晴らしいと私は思った。だから部下にならないかい」
「なっ白雪さん!それは余りにも甘過ぎます、今しがた貴女を殺そうとした連中ですよ!?」
「うん、だから?」
「だからって…」