第2章 全員揃わないのですが。
完治してたの!?じゃあ九十九さんが学校に来ないのはどうしてなんだろう。
信じていた祖父から嘘をつかれていたというのは、かなりのショックだったことだろう。愕然としている九十九さんは、顔を絶望の色に染め、呟いた。
「なんでっ」
「楽、忘れたのか?」
翡翠さんが有無を言わさぬ、と言わんばかりに厳しい口調でそう言うと九十九さんはあっさりと口を閉ざし、すいと目を逸らした。悪人面が似合いすぎて怖い!
「い、一体何が」
この二人の様子を見ていると、ただの家庭の事情で済まなさそうな雰囲気だ。翡翠さんは九十九さんに隣りの部屋で食事をするよう指示し、僕を見て言った。
「安倍先生は知らんのだったな」
せっかくだ。教えてやろう、とにいと笑う悪どい笑みに寒気がした。だから似合いすぎて怖いんだってば。
それから彼の語り始めた内容は、あまりに信じがたいものだった。
「あれは楽が高校生になったばかりの頃だったか。
進級してすぐの休暇に、楽の幼馴染である入道の坊主が人間を脅かしてやろうと心霊スポットに行ったことから始まる。あれとて幽霊の類が駄目な癖して、面白半分だったんだろう。それを知っていた楽は保険のために同行した。
そして入道の坊主と秋雨の坊主と楽は廃病院へと赴き、肝試しをしていた若者たちを驚かしていた。
楽しかっただろうなぁ。その最中、本物のお出ましだ。さぞ腰を抜かしていたことだろうさ。
ただ、本物に驚いて楽とはぐれたのは馬鹿の極みだな。よりによってはぐれた二人は揃って幽霊が駄目ときた。唯一平気な楽はいない。
恐怖から慌てて帰ろうとしたのが運の尽きだったな。まさか自分たちが驚かせた若者たちに遭遇しようとは。
彼らは思いのほか強かだった。自分たちを怖がらせた妖怪に仕返しすべく、そこら辺の廃材を手にしていたからな。
まあ、その廃材で二人になにをしたかなぞ、言わずとも分かるだろう。
そこそこ痛めつけられた二人は楽と合流すること叶わず、廃病院から連れ出された。
その後裏社会、所謂ヤクザだな。ヤクザへと売り渡された。
入道の坊主と秋雨の坊主が人間に捕らえられたことをどこでどうやって知ったのか、楽は二人が人体実験をする組織に売られる寸前で助け出した。