第2章 全員揃わないのですが。
「お前が復学しないから、説得に来たそうだ」
いや参った、とひょうひょうとのたまう彼を見つめる彼女は不満そうだった。え、何かあるのかな。
「それはじい様が」
彼女が何か言いかけたところで、パタパタと足音が近づく。
足音の正体は、お茶の準備をしに台所へ行っていた空澄羅(あすら)さんだった。ものすごく申し訳なさそうに、湯気のたちのぼる湯呑みを二つ御盆に乗せて運んできた。
「ごめんなさい、茶葉が見当たらなくって探すのに手間取っちゃって...、あら?」
ここで九十九さんに気づいたようで、困り顔は途端に喜びへと変わった。
「楽!今日は起きれたのね!待っててね、今軽い食事を用意するわ」
そう言い残すと御盆を机に置き、そそくさと再び台所に戻って行った。
「すまないな、安倍先生」
笑みを浮かべ謝罪を口にする彼は、本当にすまないと思っているか定かではなく、どこか薄ら寒いものを感じた。
それでも彼は謝罪をしているのだから何か返さなくては、と思わず焦った。
「いえっ、そんなこ「じい様」」
ない、と言おうとしたところを彼女に遮られ、咎めるように言う。途中、なんだか聞き捨てならない言葉があったけど、このピリピリした空気のなかで聞く勇気はなかった。
起きれたってどういう事なのかなぁ。
「おっと、バレたか」
「誤魔化さないで。私が復学できないのは、じい様が学校に差し止めしてるから」
ほんの少し口をへの字にして拗ねたように、でもはっきりと、翡翠さんのせいだと言った。どうやら本人には復学の意思はあるようだが、その件については翡翠さんの管轄らしい。ん?
「ゑっ」
さっ、差し止めぇ!?あの学園長相手にそんな物騒なことしてんのかこのじーさん!いっそ尊敬するわ!
「なんだ知っていたか」
なんてことないと言わんばかりに、ずずっと茶を啜る。
顔には、面白くないと書いてあるようだった。その様子が気に入らない彼女は、さらに畳み掛けた。
「骨折だって...」
「あ!そういえば、翡翠さん骨折してたって...!」
泥田君が言ってた!そうだよ、翡翠さんの怪我のせいで学校に来ないって言ってたじゃん!
どうなの!?と彼の方を見るとにこにこしながら告げた。
「とうの昔に完治してるさ」
だ、騙してたってこと?
愕然とした表情で翡翠さんを見つめる九十九さん。