第2章 全員揃わないのですが。
そこまでは良かった。
馬鹿二人を助け出し脱出する際、人間に攻撃した挙句、一時意識不明の重体にまで追い込むという暴挙に至ったのがいけなかった。
まあ、死人は出なかったから良しとするがな。
楽としては仕返しのつもりだったんだろう。よくも、と。だからといって、それが人間を害していい理由にはならない。
そも我々付喪神がヒトを襲うことは、絶対にあってはならないこと。
いくら元妖怪であったとしても、末席とはいえ神だからだ。
この一件により、遥か格上の神々から厳しい処罰を受けることとなり、我が九十九家は付喪神としての神格を永久剥奪。神から妖怪へと降格された。
そしてヒトへと直接手を下した楽は、友のためだったということで情状酌量の余地があると判断された。だが罰として妖力を八割封じ、〈封呪〉をかけられたこの謹慎部屋に入れられた。
これが楽が謹慎を食らった経緯だ」
どうだ驚いたか、なんてな。と笑う様は苦しそうだった。
そんなツラい経緯があったなんて...。
「で、でも!その経緯と翡翠さんが九十九さんを学校に行かせたくない理由とはどんな関係が!」
「簡単なことだ」
間を置かずに言い返してくる翡翠さん。にこりと笑っているけど、目が全く笑ってない。こわっ。
それだけ本気ということなんだろう。
「この子が復学したとして。生徒たちがこの子の事を怖れずいてくれるという保障は?」
そう、問題はそれだ。翡翠さんが語ってくれた凄惨な事件のなかで、如何なる理由であれ、九十九さんが暴走したという事実は消えない。
大人ですら怖いと思うのに、子供なんてなおさらだ。
「そ、それは...」
ない、と言えるはずがなかった。
彼女の担任となった僕だって、暴走するかもしれないと思ったら怖くてたまらない。
意識不明の重体にまでするなんて相当だもん。
そんな僕の表情はさぞ、いい答えになったことだろう。
「それが保障されない限り、俺は楽を学校に行かせる気はない」
翡翠さんは厳しい目をこちらに向けたまま、ハッキリと言い切った。そこまで言っちゃうのか...。
カタッと物音がしたので振り返ると空澄羅(あすら)さんがいた。彼女の表情もどこか硬く鋭かった。
「わたくしも同意見ですのよ、安倍先生。楽の悲しむ顔を見たくはないの」