第2章 全員揃わないのですが。
あまりの嬉しさに舞い上がっていた僕は、翡翠さんが何か考えていることに気づいていなかった。
そうだな、と呟いた彼は僕の肩をぽむと叩く。
わー、眩しいくらい素敵な笑顔。
「何かあった場合、...セーラー服を10着程破棄するとしよう」
「ゑ!?」
い、今なんと!?
セーラー服とおっしゃいましたか翡翠さん!
待って!それだけは!だめ!なんです!NO!ご慈悲をォ!
パニックを起こしてとんでもなく凄い顔になっている僕を見て、にいと笑ってみせる。
「何、本気であの子を守ってもらわねば困るのでな」
悪どい笑みは、彼の本気の度合いを表していた。
イケメンなのに悪役が似合いそうな笑顔は、全くもって心臓に悪い。
頭のてっぺんに生える(?)アホ毛が、ぴーんと立って小刻みに震えだした。
「ひぇ~~っ!!」
顔面蒼白になる僕をガン無視して、これで安心とばかりに満面の笑みを浮かべる翡翠さん。
そこには悪意が感じられてならない。
「頼んだぞ、安倍先生」
整っているその顔に浮かぶのは、うんざりするくらいに清々しい良い笑顔だった。
でもどうしてだろう。後ろに般若が見えるぞ。
笑みを絶やさない翡翠さんを見ないようにしていると、翡翠さんと空澄羅(あすら)さんが後ろの、さっき九十九さんが入っていった部屋の方を見た。
「話は終わったぞ、楽」
出てきた九十九さんは親指をぺろりと舐め、満足げな表情で祖父母の方を見た。
長かったね、と言う彼女は笑っているように見えなくもない。
満足げであっても笑っているようにみえても、無表情なのは変わらないけど。
「じゃあ、学校行っていいの」
刺々しい視線はどこへやら、彼女を見る彼の目は穏やかだった。そして、すまなさそうに彼女の頭を撫でた。
「嗚呼いいぞ。悪かったな、嘘なぞついて」
翡翠さんの許可と謝罪に驚いたのか、少し目を見開いて。ややあって。
「...いいよ。」
ぽつ、と呟いた。その声色は嬉しそうだった。
彼の方を向いていた彼女は、僕の方に向き直った。
「明日からよろしくお願いします、先生」
そして僕の目を見てから、綺麗なお辞儀をした。
すげー、見事なまでの45度。礼儀正しい人に育てられると、こんないい子になるんだなぁ。
なんだか微笑ましくって、ふにゃと頬が緩む。
「うん!よろしくね、九十九さん!」