第1章 平穏な日々に嵐はやってくる~おそ松~
「で、だ。ナス子姉、実は、ちょーっと頼みがあるんだけど」
出た。
さっきからちょいちょいそう呼ばれてたけど、ナス子姉と呼んでくる時はろくなことがない。
今日のこのおそ松の目を見るところどうせ。
「お金なら貸しません」
「えー、俺まだ何も言ってないよ?」
「いや目を見ればわかるから。黒目が¥になってるから。なに、まぁた競馬かパチンコで負けたの?」
「うっ」
「こりないなぁもう」
「頼む!お前を親友兼幼馴染と見込んでここに来たんだよー!!もう頼めるのはお前しかいないんだよぉ」
両手を合わせてこちらに必死に頼みこむ。
「だっておそ松、今まで貸してきたお金一度も返した事ないじゃん。例えギャンブルに勝ったとしても何かラーメンとかうどんとかマックとか奢ってくれるだけだし」
冷めた目つきでジロリとおそ松を見やると、へへっとお得意に鼻を擦る仕草。
「大丈夫だって、今度こそ勝てる気がする!
先行投資だと思ってさぁ、そしたら今度こそ金は返すからっ、このとーり」
両手を合わせたままこちらをチラチラ伺う仕草。
「………鍵」
「は?」
「スペアキー返してくれたら多少は貸してあげてもいいよ」
とにかくまずはコイツの持っている鍵を奪い返さなければ私の平穏な暮らしは守られない。
一歩間違えば私の家はヤツラの溜まり場にされる事間違いなし。
「え! 貸してくれんの?! ナス子姉まじ天使!! 女の中の女!!」
「そんな事思ってないくせに、調子いい事言うなっ」
身を乗り出しおそ松にデコピンをお見舞いした。