第57章 【R18】【おそ松ルート】その後
「おそ松……私……」
「お喋りは散々しただろ? ……布団に行こうぜ?」
「っ……」
取られた手をぎゅっと握られ、指にキスをされて、どくりと強く心臓が脈打つ。
また体温が急激に上がった気がして、一瞬眩暈がした。
おそ松の、らしくない行動のせいだ。
そう自分に言い聞かせて、言われたとおりに大人しくおそ松に手を引かれたまま寝室の布団へと向かう。
電気の点いていない寝室は、襖をしっかり閉めると遮光カーテンがその性能を発揮し、日が昇った朝とはいえなかなかに暗い。
だが、側にいる人の表情が見えなくなるほどではない。
布団の上に座らされ、一級遮光カーテンにしておけばよかったとそんなことを頭の隅で思ったナス子を、おそ松が抱きすくめる。
「おそ、松……っ、ほ、ホントに……するの?」
「だぁいじょうぶだって。俺童貞だけど、優しくするから!」
「……っ」
その言葉に、ナス子は自分も言わなければならないことがあると、小声で口を開く。
「わ……私も、その……っ初めて……だから……っど、どうしたらいいのかなぁ?! わかる?!」
わっと突然大きな声で困惑しはじめたナス子を、きょとんとした顔で見つめるおそ松。
「え……っ、ドン引き?! 私に引いてる?! そうだよねー! 散々アンタ達に童貞童貞言っておいてっ……ごめん」
「いや、そうじゃなくて」
「え……?」
「知ってるよ? お前が処女なんてことぐらい。当たり前だろぉ? 何年一緒にいると思ってんだよぉ、急に何かと思って思わずキョトンとしちゃったわ」
「え、あ、え……そ、そうなの……?」
嘘だ。
過去に兄弟達と散々会議の議題にしていたことだが、こればかりは本人の口から聞かないと真実はわからない。
どんなに一緒にいたとしても、一つ屋根の下に暮らしているわけでもなければ、別々にいる時間の方が遥かに長いのだ。
その間に、どんなことがあっても別段不思議ではない。
ただ、確証はないが予想はしていた。
それが当たっただけのことだ。
何やら勝手に勘違いをして、勝手に傷ついたような表情を見せたナス子を安心させるために、咄嗟に口を突いて出た嘘だった。