第50章 【カラ松ルート】レンタル彼女、始めます
さすがにマンションの廊下で立ち話をするのは気が引けて、ナス子はカラ松を家の中へと促す。
カラ松も黙ってそれに従い、今はコタツを挟んで、二人向かい合わせに座っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
チクタクと、時計の音だけが室内に響く。
先に口を開いたのは、ナス子のほうだった。
「なっ、なんか飲む?! コーヒー・・・・・は、夜だしやめておこっか・・・・・・えと、紅茶でも」
「ナス子」
立ち上がろうとテーブルにかけた手に、カラ松の一回り大きな手が重なる。
それだけでドクリと心臓が高鳴り、思わず動きが止まってしまう。
「何もいらない・・・・・・座ってくれないか。話が・・・・あるんだ」
もう、怒ってはいないのだろうか。
カラ松が真剣な声でそう言うと、ナス子は黙って言われた通りにその場に座りなおす。
「今日の昼間のことなんだが・・・・・・」
その言葉に、ナス子はズクリと胸を痛めると、どうしてかその先の台詞を聞きたくなくて、カラ松の言葉を遮ってしまう。
手持ち無沙汰に、組んだ自分の指の爪を擦る。
「あっ、ごめんね! デートの邪魔ちゃってさっ・・・・・・まさかあんな所で偶然会うなんて思ってもみなかったから、あ、カラ松もビックリしたでしょ・・・っ」
「ナス子、そのことで━━━」
「なんかホントごめんね、私馬鹿で鈍感だからさ・・・・あの時、カラ松怒らせちゃったみたいで」
「・・・ナス子、俺は」
「嫌な思いしたでしょ? せっかくデート中だったのに、ホント・・・・・・っごめ・・・・」
ここで泣いたら駄目だと、必死に涙を堪えるが、堪えようとすればするほど息が詰まって、うまく言葉が出てこなくなる。
これ以上、カラ松に嫌われるようなことはしたくない。
手の甲に痕が出来るほど、自分で自分の手を強く握り締めて、泣くまいと俯いて必死に目を見張る。
「・・・・・・・・ああ、そうだ。とても不快だった」