第49章 【一松ルート】マイナス端子の恋
「いちまぁーつ!!!」
どのくらいじっとしていたのだろう、気づくと一松の体は冷えて固くなっている。
自分がずっと会いたくて、会えなかった人物の声が小さく聞こえると悲しい表情をして、少しだけ見えるナス子の姿を確認してから一松は見つからないよう奥に身を隠す。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・あんにゃろ、どこまで逃げやがったんだ・・・絶対見つけてやる」
まるでヤクザか借金とりみたいなセリフだ。
しかし、暫く聞いていなかった声が聞こえ、一松はそれだけで胸が苦しくなってくる。
今すぐにでも飛び出して触れたい、話したい、好きだと言いたいが、どうしても足が動かずじっと隠れたままになってしまう。
「確か十四松がこの辺によく一松が来るって言ってたんだけど~・・・ハァ・・・ハァ・・・ダメ、ちょい休憩」
決して遠くはない距離のベンチにナス子が腰掛ける姿が見える。
暗がりなのでどんな状態なのかはわからない一松だったが、ナス子が走って自分を探しているという事だけはわかった。
夜に女の一人歩きとかどうなの?危なくない?
先程まで身を隠そうと思っていた一松だが、ナス子の姿を見ると違う思考へと切り替わっていく。
まだ勇気が出ず立ち上がれないままだが、じっとその様子を眺めていた。
ふと三人組の知らない男性がナス子の前を騒がしく通りすぎる時、ベンチに座っていたナス子は何をされた訳でもなくビクリと肩を上げて体を強張らせていた。
暫く様子を見ようとしていた一松も、やっと夜の視界に慣れ、その様子が目に取れると先程の自分の感情などお構いなしに滑り台の下から飛び出した。