第48章 【トド松ルート】小さな努力
二人、中で言い合いをしていると、外から声が聞こえてくる事に気づき、まさかの狭い試着室の中に男女が入っていると言うのを知られるのはマズイと咄嗟に息を殺す。
外の声が遠ざかるのを待つが、前に立つトド松はナス子の両肩に手を置き、外の様子を伺うようにしながらも身を小さく詰める。
思ったよりも近い距離までトド松が来ていた事に気づくと、目と目が合ってしまい共に赤い顔のまま気まずそうに視線を逸らした。
こんな状況だからなのか、それとも身長差だからなのか・・・肩に置かれた手も自分よりも大きく、肩を出して直接肌に触れるトド松の体温が伝わると、末っ子相手なのにやはりトド松は男性なのだと意識してしまい、胸が苦しくなった。
「トっ・・・」
「しっ、静かに・・・まだ誰かいるみたいだから」
自分の唇に指を立て、ナス子に大人しくするように言うも、トド松はナス子の顔を直視出来ないでいた。
本当はもう、外からの声も・・・足音もしていない。
ただもう少しこの状況を楽しみたかったトド松が嘘をついただけだった。
鳴りやまぬ煩い心臓の音に邪魔され、外の音など聞こえるどころではないナス子は、トド松の言う通り大人しくする事にすると、今も尚気まずそうに下を向き視線を泳がす。
こんな近い距離になったり、壁においつめられたり、実際共に試着室に入った事も初めてではないのに、どうしてこんなにも緊張してしまうのかと・・・思考がおかしくなりそうだ。
「もう、いいよね?」
「あ・・・うん、もう・・・大丈夫、かな?」
やっとトド松の身体が離れると、脈を落ち着かせるよう胸を押える。
「似合ってるからそれにしなよ、あと・・・足、出してた方が女の子っぽくていいね♪ふふっ」
一方トド松はフゥと息を吐き、様子を伺いながらもう一度ナス子の顔と姿を見て、ニコリと笑顔を向けながら声をかけ、素早く試着室から出て行った。
緊張から解放されたはずなのに、最後にトド松からかけられた声に・・・抑えようと頑張っている脈が落ち着かず、ざわついている事にとても違和感を感じているのだが、とにかく早く脱ぎたかったので両頬を軽く叩き再び着替えを再開したのだった。
そこから、二人の行動は一日おかしくなっていく。