第44章 私が気持ちよくなる薬を六つ子に飲ませました 六つ子と私
「おそ松! カラ松! 喧嘩しないで! 末の弟を上の兄二人で怒鳴ったら可哀想でしょ!」
「いや六つ子だから! みんな同い年だから! 泣いたフリってわかってるのに優しく包みこむとかヴィーナス?! お前慈愛のヴィーナスだったの?! ヴィー・・・うぬぐぉあああああ」
「そうだぞヴィーナス! そいつはお前と同じ空間に存在するだけで罪に当たるドライモンスターなんだ! ヴィーナスのお前とは生きる世界が違う! 俺のヴィーナスから離れろトド松!」
これほどまでにヴィーナスという言葉が連呼される空間が、果たしてこの世にあっただろうか・・・。
もはや褒めらているのか何なのかわからなくなってきたナス子は、死んだ魚のように濁った目で兄二人を見据える。
ナス子の横にぴっとりとくっつきながら、スッカリ涙が消えたトド松がこれ見よがしに溜め息をついて首を軽く横に振る。
「ヴィーナスヴィーナスってそれしか言えないのかなぁ? ぼくは姉さんのいい所、他にもいーっぱい知ってるよ? まず声がいいよねっ! 体型も、多少肉付きがあったほうが女の子らしいしっ! それに気が利くし、働き者だよね・・・! 今日のそのダサ服も似合ってるよ? そんなダサ服着こなせるのなんて姉さんくらいだもんね♪ 羨ましいよ、どんな服でも似合っちゃってさ、ふふっ」
「うわぁー・・・褒められてるのになんだろう、後半ぶん殴りたーい!」
ニッコリ笑顔で、トド松の眼前でぐっと血管が浮き出るほど拳を強く握り締めると、同じく笑顔のトド松の顔に一筋の汗が垂れる。
「姉さん姉さん! お姉さま! その引き攣った顔もすっごく素敵で可愛いよー! ボク、姉さんのどんな顔も大好きー!! 姉さんの顔がゴリラでも大好きだよ~!」
「ゴリラってなに十四松!!」
ナス子はもう一度時計を一瞥してハァと溜息をつく。
コイツら・・・もう薬の効果完全に効いてるハズなのにどうしてこう私を陥れる言葉まで入ってしまうのか・・・。
デカパンに相談して余計な言葉を喋らない薬にでも変えてもらった方が良かったのかなとも考えた。