第37章 危険な香りの温泉旅行 本日最終日
「無防備すぎなんじゃないの……あんた」
熟睡しているナス子にはその言葉は聞こえてはいないだろう。
しかし、何故自分の布団の中にナス子が入っていたかわからない。
しかも自らである。
一連を思い返すと、昨日の夜怪談のオチが終わった後、さすがの実体験にナス子が怖がって一松に手を繋いで寝てくれないかと懇願した事は覚えていて……一松も別になんら気にする事なく手を繋いだ。
その時は勿論お互い別々の布団で寝ていたハズだ。
元から寝相はあまりよくないし、体温を求めると人にくっつく癖のあるナス子だが、自分が男として意識されていないのかと思うと少し腹が立つ。
「無断で男の布団に侵入したお前が悪いよね?」
ボソボソと言い訳のようなものを呟くと、一松は幸せそうに眠るナス子の唇に自分のものを軽く重ねた。
そしてペロリと唇を舐める。
これくらいならまぁ、セーフでしょ。
という一松の心の中の言葉は誰に聞こえる訳でもなく自分に言い聞かせているようだった。
「ぬふふー、ミケ子~甘えん坊だなぁ」
そしてやっとナス子が薄く目を開け寝ぼけ眼な表情を作る。
キスをしていたので一松の顔は至近距離にあり、ナス子は目をパチクリさせた。
「……おぁ!!一松!!!?ミケ子じゃなかったっ」
あまりの至近距離にナス子も絡めていた足と抱き着いた腕を慌てて離し、一松も手を緩めると、ゴロゴロと自ら転がって行き、一番隅の壁に頭を強打する。
「ボェっ!!!痛った━━━━━━━━━━!」
頭を押えて蹲るナス子を上体を起こしニヤついて見る一松。
いつものように軽口が洩れる。
「へへ、馬鹿だね……人の寝込み襲おうとするから罰が当たるんだよ」
「ええ?!私一松に手ぇ繋いでもらって寝てただけじゃん!!」
ぶつけた頭を摩りながら一松の隣へと戻るナス子は口を尖らせて文句を言い返す。
本当ならもっと凄い事したいんだけどね……。
なんて心の中で本音を漏らす一松の心情など表情や態度からも全く察する事の出来ないナス子は眉を顰めてふと何かを思ったように猫目になった。