第37章 危険な香りの温泉旅行 本日最終日
襖を隔てた隣の部屋から朝の明かりが漏れてくる。
一松はその眩しさに少し眉を顰め、眠たい瞼をゆっくりと開けた。
起き上がろうと状態を起こそうとした時、自分の体にぬくもりを感じ眠たかった意識も一気に目が覚める。
見ると、自分の布団の中でナス子が手を握って眠っているのだ。
「…………は?なにこの状況」
しかも何故だろうか、周りを見回すと他の兄弟達の布団はもぬけの空になっており5人のうち一人もこの部屋にはいない。
きっと朝風呂にでも行ったのかと考える一松は、気持ちよさそうに未だ眠るナス子の顔を近くで見るためもう一度寝なおす。
「…………」
よくナス子の家に勝手に上がっては寝顔を見たり、子供のような悪戯をしたりなどするが、基本は起きてくるまで起こさない。
それが一松の優しさであり気配りである。
ナス子が寝ているのをいい事に、一松はナス子のデコに自分のデコを摺り寄せながらも頬と頬をくっつける。まるで猫が人にじゃれているかのような動作だ。
「ぅ……むぅー……ミケ子ぉ、くすぐったいよー……」
寝言なのかなんなのか、ナス子がクスリと笑い眠ったまま笑顔を作ると一松を愛猫と勘違いしたらしく、何も抵抗はない。
ナス子の突然の言葉にビクリと反応し、猫耳を生やすが、すぐ猫耳は元に戻った。
誰も部屋にいないという好都合な出来事に、ナス子の頬に手を添え触れてみる。
その温もりにナス子は自然と頬を擦りつけてくるが、それを見た一松は、……どっちが猫なんだよ、などと思う。
気持ちよさそうに眠るナス子の髪を優しく撫で指にかけると梳かすよにサラリと流す。
正直、お互いが浴衣で寝ていた事を今の今まで忘れていた一松だったが、ナス子の足が自分を抱き枕にしようと絡み付いてきた。
「は?!はぁ?!おま……」
突然巻き付かれた生足に動揺が隠せないでいる一松は、途端硬直したような姿勢でドキドキと鼓動が早くなるのを感じた。
だが、いくら他の兄弟達がいないこの状況でも、さすがに寝こみを襲うなどと言う度胸はなく、抱き着かれたナス子の背中に手を回し自分も抱き返す。